りたの機関紙として2006年10月に創刊された「りた便り」(月刊)は、2010年7月発行の46号より「Litaracy」(隔月刊)として生まれ変わり、今号で記念すべき100号となりました。
りたが設立された当時(2006年6月設立、NPO法人として認証されたのは同年9月)、日本は世界に先駆けて人口減少社会に突入し、少子高齢化、防犯、防災、福祉、環境といった多様化する社会問題に対して、行政のみで対応することの限界が指摘される一方で、必要な社会サービスの担い手として、市民や企業への期待が高まっていました。そこで、りたは「市民及び市民団体、企業が行う社会貢献活動を促進し、市民・企業・行政が相互に参加や協力するまち育てを支援することで、岡崎市の協働型社会づくりを促進する(定款より)」中間支援組織として産声を上げました。以来、まち育てに関わる立場や行動原理の異なる人・団体の間に立ち、意見を整理・調整したり、それぞれの活動を支援することで、「市民が公共の担い手となること(新しい公共)」と、「自分たちのまちを自分たちで良くすること(市民自治)」を促進してきました。
今号では、これまでりたの活動やその意図を伝えてきた「りたらしい」を手掛かりに、これまでのりたの活動を振り返ります。
■「私」と「まち」を結ぶ、りた
りたの使命は、「持続可能な社会」につながるまち育てを進めること(設立趣意書より)です。まちが持続可能であるためには、暮らす人のまちへの愛着や関わりが必要不可欠と言えますが、いつからか私たちは、まちのことを行政頼み、人まかせにすることが当たり前になり、まちへの愛着を持ちづらく、まちとの関わりが希薄になってしまいました。
そこで、りたは、自分の暮らすまちに関心を持つ機会をつくったり、さまざまな形でまちに関わる場を設けたりすることで、「私」と「まち」を結びます(=「新しい公共」の構築)。そのことがさらにまちに関わる原動力となり、地域の活力が高まり、地域が主体となって地域資源を活かし、地域の課題を解決する仕組みをつくること(=市民自治)が、持続可能な社会の実現につながると考えています。
●りたの役割
❶ファシリテーション ❺仕組みづくり ❻担い手発掘
公共空間は、行政まかせの最たるものの一つです。公園、図書館、道路などがどんな場所になったらよいのか、かつてはそうした公共の計画に市民が意見やアイディアを伝える場はありませんでした。りたの前身の一つである「岡崎CDC研究会」は、❺公共施設計画・デザインへの市民参加の対話の場づくりを提案し、りぶらの計画プロセスでそれが実現しました。❶建設的な対話の場が成立するように、どのようなプロセスで、どのような参加者と、どのような切り口で話し合うべきかを考え、整理し、その地域ならではの、より創造的な意見や提案を引き出すのがりたの仕事です。
こうした対話の場から、❻参加者に「自分たちの提案を行政にお任せするのではなく、自分たちで実現したい」という意識が生まれ、市民自らりぶらのソフトを提案・実現する「りぶらサポータークラブ(LSC)」の設立につながり、りぶらを起点としたまち歩きに誘う「りぶらぶらりMAP」の作成、りぶらにおける託児サービスを担う「りぶらっこ★ふぁみりー」の設立、図書館の映像資料を有効活用する「シネマ・ド・りぶら」など、さまざまなサポーター活動が生まれています。市民の公共施設の計画から運営にいたる積極的な参加は、まさに「新しい公共」の形を体現していると言えるでしょう。
これらの取組みがきっかけとなり、市内の公共施設や計画づくりに市民参加の手法が用いられるようになっていきました。
ました。
①地域の活力を蓄える
りたは、岡崎市が市内5か所に設置した市民活動や地域活動の拠点「地域交流センター」と図書館交流プラザの「市民活動センター」を運営することで、自ら公共の担い手となる実践をしています。
地域活動の担い手不足が深刻化する一方で、誰かの役に立ちたい人もいます。そこでりたは、拠点施設の運営を通じて、施設利用者のみならず、地縁組織や教育機関等と良好な関係を築き、地域づくりの担い手の発掘や地域情報の収集・発信を行っています。
こうした拠点に蓄積された社会的ネットワークが、地域づくりの活力の源となっています。
りたの役割
❷マッチング ❸相談・情報提供 ❹学習機会の提供 ❻担い手発掘
今年で12回目となった「なごみん横丁」は、❹なごみん全館を一つのまちに見立て、子どもたちが住民となり、公共の仕事をしたり、自分で起業をしたりしてお金を稼ぎ、税金を納め、選挙で町長や議員を選び、遊びながらまちづくりを体験する「子どものまち」です。❷地元の商店街や教育機関と連携し、4日間で1,800人以上の子どもたちと180人余りのボランティアが集まり、地域ぐるみで未来の地域を担う子どもたちの創造的教育の場および多世代のボランティアの受け皿として定着しています。
市民活動センターはじめ6つの拠点施設においては、社会貢献したい人の入口として、❷ボランティアをしたい人と、活動を支援してほしい市民団体をマッチングする「まちびとバンク」の仕組みを構築し、年間およそ100件の依頼件数、3,000件超のマッチングにより、市民活動・地域活動に必要なマンパワーを補う支援を行っています。
また、各センターでは❸地域情報にアンテナを張り、日々の情報収集や情報誌および市民活動団体向け情報の編集・発行を通じて、地域情報を蓄積すると共に、地域活動、市民活動に取り組む方々との関係づくりに勤しんでいます。そうしたネットワークを活かし、地縁組織や教育機関と連携して、世代間の交流や、地域活動・市民活動の啓発に力を入れています。
「まち育てスクール」では、❻歴史・文化・産業、自然、地域活動といった資源に光を当て、まち歩きを通じてその魅力を伝える担い手の育成を行うと共に、❹地域ならではの学習機会を提供しています。
「岡崎まち育てフェスタ(通称:まちフェス)」では、❹優れた市民活動・公益活動や市民協働事例を紹介したり、❷協働意欲のある市民団体、企業、教育機関を募りマッチングを図ったりするなど、地域づくりの活力を増幅する場づくりを行っています。
こうして蓄えられた活力は、地域の資源を活かしたり、課題を解決する原動力となります。
②地域の資源を活かす
「地域に魅力がない」「担い手がいない」という課題はよく耳にしますが、私たちの身の回りには、その場所ならではの環境や文化、風習があり、それらを支える人や活動、場所があります。
地元の人しか知らないような魅力もあれば、地元の人が気づかずに外から称賛されるような魅力もあります。
りたは、地域に潜在するそうした活用されていない資源に光を当て、それまで見過ごされてきたまちの価値を見出し、広く共有し、誇りや愛着を持つ人、関わる人を増やすことで、地域の活力を高めるまちづくりを実践しています。
●りたの役割
❶ファシリテーション ❺仕組みづくり ❻担い手発掘 ❼調査・研究
公園、道路、河川、公共施設などの公共空間は、必ずしも有効に活用されているとは言えない地域資源の一つと言えます。その背景には、使うためのルールがない、あっても周知されていない、「使いたい」と思っている人がいないなどの理由があります。
乙川河川敷は、これまで桜まつりや花火大会以外はあまり使われていませんでしたが、国の「かわまちづくり支援制度」に登録され規制緩和されたことにより、民間による商業活動などが可能になりました。
りたは❶❻❼水辺活用の専門家(ハートビートプラン)と共に、どんな使い方ができるのか、どんな使い方が適しているのか、これまで培ってきたネットワークを活かして水辺活用の担い手候補となりそうな市民団体や事業者に働きかけ、❺乙川河川敷を魅力的な場所に変えていく社会実験「おとがワ!ンダーランド」を企画・運営しました。
乙川河川敷を活用するにあたり、通り過ぎるだけだった水辺に立ち止まったり、かわまちづくりの取り組みを知ってもらうための水辺活用の拠点として、交通量が多く、岡崎城と乙川を望む絶好の視点場でもある殿橋のたもとに、仮設の「殿橋テラス」を設置しようという企画が立ち上がりました。前例のない試みに、河川や道路の占用許可申請や、警察、保健所、事業者との調整など困難を極めましたが、関係機関との粘り強い協議やそのために必要な資料の作成など、市と二人三脚で克服し実現。現在では、全国から注目を浴びる存在となっています。
4年間の社会実験を通じて、❻乙川に関わった人々やその活動から、それまであまり意識されてこなかった、「山(水源地)とまちをつなぎ、恵みを運ぶ」という乙川の価値や、地域に密着しているからこそ発見できる四季折々の魅力に触れ、発信・共有を図っています。
将来的には、特別な催しや仕掛けがなくても、市民自らが公共空間の楽しみ方を見出したり、つくり出し、そうした光景がその場所の魅力になっていくことを目指しています。
③地域の課題を解決する
少子高齢化、空き家の増加、地域活動の担い手減少など、さまざまな地域課題が深刻になってきていますが、そもそも自分たちの暮らすまちにどんな課題があるのか、また、そうした課題にどのように対処すればよいのか、明快な答えや方程式がある訳ではありません。
そこで、地域の課題を地域の人自らが把握し、共有することや、明確になった地域の課題を“対応可能なサイズに切り分ける”ことを支援し、地域でできる地域課題の解決を促進しています。
●りたの役割
❶ファシリテーション ❺仕組みづくり ❻担い手発掘 ❼調査・研究
中心市街地の北のはずれにある松本町は、松平広忠公(徳川家康の父君)の廟所がある松應寺を中心に形成されており、江戸時代は門前町として、明治後期から昭和中期までは花街として栄えました。幅員4m に満たない路地や建物群と一体化した木造アーケードは、レトロな魅力を醸し出していますが、空き家の増加や少子高齢化が進行していました。
こうした状況を何とかしようと、2011年7月、❶町内会役員、松應寺住職、りた等からなる「松應寺横丁活性会議(現・松應寺横丁まちづくり協議会)」を発足、同年8月、❼松本町民を対象としたアンケート調査の企画・実施を支援しました。この結果を元に、「松本町にぎわい基本計画」を策定し、活動の礎を築きました。同計画に基づき、❻松本町のまちなみの魅力を広く知ってもらい、町内外の人々の関心を集めるため、「松應寺横丁にぎわい市」の企画・実施を支援(2011 年11 月~)。「にぎわい市」のにぎわいを日常化することを目指し、❺愛知県「新しい公共支援事業」の補助金を活用し、気軽に立ち寄れる地域の交流拠点「松本なかみせ亭」の開設・運営支援を行いました。並行して、不明だった空き家の所有者の把握や活用希望者とのマッチングを促進し、これまでに延べ12件の空き家活用が実現しています。
2013年、❼町内会長、老人会、民生委員、地域包括支援センターと連携し、お年寄りの暮らしのニーズに関する調査を行い、高齢者の買い物難民化が深刻になってきていることがわかりました。以後❺毎月定例会を開き、外出機会を損なわず、安否確認を兼ねる会員制弁当屋の運営や定期的な高齢者の会食会の実施、高齢者の居場所となるサロンの開設など、地域ぐるみの活動が広がってきています。こうした地域が主体となった一連の取り組みが「地域包括ケアシステム」のモデル事例として評価され、現在、地域が主体となった高齢者支援の仕組みづくりに取り組んでいる地域包括支援センターとの連携が進んでいます。
今後、いろいろな立場の人が集まる会議に求められるファシリテーション技術や、住民の意向を把握する調査の支援、地域交流センターを軸とした地域活動の支援体制の強化など、りたの強みを活かして、地域ができる地域課題の解決のための支援に注力していきます。