岡崎市は、2006年に旧額田町と合併したことにより、水源の森から矢作川に合流するまでの乙川流域全体が市域に含まれることになりました。そのため、治水・利水・親水など、川に関連する様々な施策や活動が一つの自治体で取り組みやすい環境が整ったと言えます。
2015年に始まった乙川リバーフロント地区整備に端を発した「かわまちづくり」により、水辺空間の有効活用から、乙川流域全体の魅力向上や課題解決に至るまで活動の対象が広がってきています。りたは、当初から乙川のかわまちづくりに携わってきたことから、11月4日(金)、5日(土)に岡崎が会場となった「全国川サミット」のパネルディスカッションの企画・運営を務めました。今号では、乙川に縁の深い6名のパネリストの皆さんと話し合った「乙川のかわまちづくりのこれまでとこれから」についてご紹介します。
全国川サミットとは…一級河川と同じ名前またはその流域にある全国の市区町村が集まり、川と流域との関わりや次代に向けてのより良い川との共生の方向を探ることを目的として毎年開催されている。今回で30回目。
●「川の関係人口」を耕す乙川のかわまちづくり|第1部「事例発表」より
岡崎市の中心部を流れる乙川では、SUP、観光船、朝市、夜市、ヨガ、キャンプ、橋ふき、リバークリーンなど、様々な活動を目にします。こうした風景は、いずれも6年前から始まった「かわまちづくり」をきっかけに生まれたものです。
2016年より、岡崎市の委託事業として、りたとハートビートプランが事務局となって、乙川の水辺活用社会実験「おとがワ!ンダーランド」がスタート。3年目からは民間事業者が主体となって「おとがワ!活用実行委員会(※1)」を設立し、乙川ならではの使い方や魅力を模索。計5年間の河川活用の社会実験期を経て、昨年度より本格運用期となり指定管理が導入されました(指定管理者は「リバーライフ推進委員会(※2)」)。 また「おとがワ!活用実行委員会」メンバーを中心に、乙川を愛する有志による任意団体「ONE RIVER」を設立し、流域全体の魅力発信に尽力しています。6年間のかわまちづくりで、上に触れた「新しい日常」の風景が生まれたことに加え、川に親しみ川を大切にする「川の関係人口」が増えてきたことが重要な成果だと言えます。
●川の関係人口を増やし公民一丸の「流域治水」へ|第2部「パネルディカッション」より
乙川の管理者である愛知県河川課の杣谷正樹さんは、気候変動に伴う水害リスクの増大に対して、公助には限界があり、自助や共助でリスク回避に努めなければならないと警鐘を鳴らします。
乙川上流部で暮らす唐澤萌さん(草木染作家/イラストレーター)は、農林業の担い手の高齢化が著しく、数年後には森や田畑の維持が困難になることが目に見えていると指摘します。農林地が荒廃すると、大雨の際に雨水を一時的に貯留する機能が失われ、下流部の水害リスクが高まることが危惧されます。
一方下流部では、額田産の木材が使われている桜城橋を雑巾がけすることで橋への愛着や上流の環境への関心を高める「桜城橋ふき」(あいち橋の会)や、乙川流域の自然・歴史・文化・産業等の地域資源に触れ、地域の課題解決とビジネスの新たな着想につなぐ「ローカルワークツーリズム」(スノーピークビジネスソリューションズ)といった「川に関わる入口」が増えています。これらの経験をきっかけに流域全体への関心を高め、川でつながる中山間地と市街地が連携して、川の豊かな恵みや営みを守り育む活動につなげていこうとする乙川の一連の活動は、現在国が力を注いでいる、流域全体で公民一丸となって水防に取り組む「流域治水」の考え方と重なっていると言えます。
●「行政任せ」のまちから、「自分ごと」のまち育てへ
上下水道が整備されていない集落に暮らす唐澤さんは、井戸から汲む生活用水の水質を自ら検査し、生活排水が直接川に流れてしまうため極力汚さないように心がけ、大雨が降ると近所の川が決壊しないか五感を研ぎ澄ませて警戒していると言います。岩ヶ谷さんはこの状況を「水質や水害のリスク管理が行政任せになっている下流部と対照的」であるとし、川と暮らしの関係を自分事としてとらえ、危機意識を正しく持つことの大切さを指摘しました。
最後にハートビートプランの泉英明さんは、東日本大震災後に行政の定めた基準で巨大な防潮堤が一様に整備される被災地が多い中、リスクを負ってでも海との関係性を保つことを選択した気仙沼の事例に触れ、それを可能にしたのは、リスク管理を行政任せにせず「海との関係性を失うこと」と「災害リスク」を秤にかけて地域で合意形成したことだと紹介してくれました。
私たちの暮らしや生活環境の多くは公共の事業やサービス等に依存していますが、それが当たり前になると、何をどこまでやってくれていて、どこから自分たちでやるべきかを見失いがちです。そうなると、まちの将来像やそれを実現するための道筋などを自分たちで考えることが困難になってしまいます。乙川のかわまちづくりでは、川と暮らしの関係性を再発見しながら、川(まち)の課題を人任せにせず、自分たちの川(まち)を自分たちで守り育てる実践の連鎖が生まれており、それこそがこれからのまちづくりの当事者を増やしていくことにつながるということを確信できたパネルディスカッションでした。