「地域の困った」を解決し続けるー松本町包括ケア会議の10年ー

掲載号: りたらしい 130 号
発刊日 2024年11月

りたが「高齢者に優しいまちづくり」に初めて取り組んだのが松本町(広幡学区)です。この取組に着手したのが2013年であり、今年2024年は活動開始から10余年が経過しました。
 前号では、2011年から松應寺横丁の空き家対策事業に取り組んできたことを紹介しました。当時から松本町の高齢化率の高さ、独居老人の生活に関する課題は、りたとしても把握、認識していましたが、具体的な活動をおこすには人手が十分ではありませんでした。しかし、前号で紹介した「にぎわい市」「なかみせ亭」などの取組を通じて、徐々に地域内外の出店者や協力者が現れ、松本町の地域活力が高まっていったのです。
 高齢者や独居老人の生活支援の取組を進めるにあたり、そうした新たな担い手の存在が重要なカギとなりました。今号では、松應寺横丁の高齢者支援の側面に焦点を当て、現在までの活動の流れを紹介します。

松本町包括ケア会議とは?

高齢者支援の体制について、町総代(自治会長)や地元の市議に相談し、2013年に「松本町包括ケア会議(以下、松本ケア会議)」を発足しました。当初の構成員は、総代、民生委員、氏子総代、老人会会長、簗瀬市議、ひな包括支援センター、およびりたでした。その後、活動が展開する中で、会員制お弁当屋(一松/椿寮)のオーナー、コミュニティカフェ「なかみせ亭」のオーナー、おしゃべりサロン「じゅげむ」のオーナーらにも参加いただくようになり、現在に至っています(発足当時は毎月開催、ここ数年は隔月開催)。
 松本ケア会議の取組概要を下記に示します。ここで実現してきた(インフォーマルな/行政などの制度にのらない民間主体の)社会サービスは「①独居老人向けの食事サービス(および安否確認)」「②独居老人向けの会食機会(年4回、今は年2回)」「③独居老人の緊急連絡先等の把握」「④食材、食事の場の充実」と、多岐にわたります。また、会議での主要議題の一つが「認知症高齢者に関連するトラブルへの対応」であることも特徴です。以下、この10年間の活動を伴走支援してきた筆者(三矢)の立場から、この活動が長期にわたって比較的上手く展開出来ている要因と思われることについて紹介します。

図1 独居老人向け会員制お弁当屋「一松」の様子 
図2 会食パーティ「じゅげむ」の様子
図3 移動スーパー「とくし丸」

松本ケア会議が長期的に上手く展開できている要因とは?

 一つは、「雑談の中に活動のヒントがある」です。松本ケア会議では、会議が始まる前に、町総代が最近のまちの話題(お祭りが近い、認知症の○○さんに関するトラブル他)を雑談的に話し出すことが常となっています。例えば「最近、立て続けに、独居老人が家の中で倒れて、救急車を呼んだ際に同乗することとなり、本人の連絡先や日頃飲んでいる薬を聞かれたけど、知らなくて困っちゃうんだよね」といった愚痴。これを手掛かりに検討や調査が始まり、日頃飲んでいる薬や緊急時の連絡先を書き出し、その紙面を入れたケースを冷蔵庫に入れ、この状況を救急隊に伝わるように、玄関裏側に掲示を出す「救急医療情報キット」の開発が実現しました。ちなみにこのキットは、町内で開発し、運用は学区単位に広がりました。
 もう一つは「おせっかいおばさんを取り巻くコミュニティ」です。コミュニティカフェ「なかみせ亭」を切り盛りしてくれているキーパーソンの一人がSさんという女性(おせっかいおばさん)です。彼女は、服が汚れていたり、場合によっては大声を出してしまうような認知症高齢者が来店した際も、「困っちゃうのよねー」と笑い飛ばしつつ、言葉巧みに服を着替えるように促したり、あるいはデイサービスセンター利用へとつなぎ、数か月をかけて、おだやかなコミュニケーションがとれるところにまで関係を変えていきます。ケア会議では、こうした現場での苦労を労い、時には笑い話として分かち合い、時には地域包括支援センター職員から助言をもらい、あるいは包括職員による直接介入にもつないでいきます。
 10年を俯瞰して思うのは、「地域が臨機応変に、楽しみながら、愚痴をこぼしあいながら取り組む領域」が土台としてあり、一部側面的に「りたが、まちづくりの助言者、伴走支援者として計画的に支援できる領域」により活動開発を促進し、「地域包括支援センターが扱う、社会制度として担保できる領域」との連携や協働にも目くばせをするような場として、松本ケア会議が運用されてきたことが良かったと思う。りたは、こうした地域での会議運営支援を、引き続き継続展開していきます。