自ら考え、遊びぬく―子どもの手で運営されるまち「なごみん横丁」

掲載号: りたらしい 53 号
発刊日 2011年9月

 子どもたちが必死になって職を探し、働き、遊びまわる。更地だった会場に、徐々に段ボールで作られたお店が立ち並んでいく。買物をする丁民、お店をせっせと飾る店員、タイムセールをお知らせするアナウンス、走る子を注意する警官。丁民集会となると、中央の広場に全丁民が集まってくる。選挙で選ばれた丁長、議員が丁民の意見に耳を傾け、政策を発表する。ビデオカメラで中継するカメラマンの姿もある。そこには子どもしかいない、子どもの手によって運営されるまちが出現。

 岡崎市北部地域交流センター・なごみん(岩津町)の夏の風物詩となっているこのイベントの名は「なごみん横丁」。今年で5回目を数える(2011年時点)。去る8月16日(火)から20日(土)まで延べ1,336人の子どもたちが集い、大盛況のうちに5日間の日程を終えたばかりの「第5回なごみん横丁」に迫る。

横丁誕生のきっかけ

 きっかけは、さかのぼること6年前、りたの三矢(現事務局長)が、当時なごみんスタッフであった川端(現なごみんセンター長)に、ミニ・ミュンヘン(ドイツのミュンヘン発祥の「子どものまち」。日本でもミニ・ミュンヘンを原型とした「子どものまち」がたくさん誕生している)のビデオを紹介したことだった。

 「どうしてもこれをなごみんでやりたい!」-川端が抱いた強い想いは、なごみん利用者であったお母さん方に伝播し、有志数名と小学生たち、りたスタッフらによる「なごみん横丁実行委員会」が結成されるに至った。2007年初頭のことである。それから毎月実行委員会を開き、まちの仕組みについて検討を重ね、2007年8月に記念すべき「第1回なごみん横丁」の開催にこぎつけた。 以後、5年間関わり続けてくれている子ども実行委員の小中学生や、岩津商工発展会、岩津高校を始めとした地域の方々の協力など、地域密着型の運営体制が横丁の特徴でもあり、強みと言える。

横丁の仕組み

 横丁に入ると、まず最初に役場で住民登録をして、パスポートをもらう必要がある。広場で横丁の仕組みについての説明を受けると、パスポートにサインをもらい、擬似通貨「10じゃん」が支給される。(「じゃん」は、三河弁の「じゃん・だら・りん」から来ている。紙幣のデザインは子ども実行委員の一人、五反田綾乃ちゃん。)銀行に行って、パスポートを提示すれば、先ほどの10じゃんを引き出せる。

 とは言え、10じゃんではたいしたことができないので、まずは仕事をしてお金を稼ぐ必要がある。『なごみんワークス』には、六角形の塔に所狭しと求人票が貼り出されており、その中から自分の興味のある仕事を選ぶことができる。(余談だが、丁民の数が増えてくると、仕事の需要と供給のバランスが崩れて、仕事もない、お金もない子どもたちがまちに溢れてスラム化する。そうなると、ワークス職員は求人を求めてまちじゅうを駈けずりまわることになる。最初は何をしていいかわからない低学年の子でも仕事ができるよう、物を運ぶ、紙を切る、色を塗る、などの簡単な作業を細分化してワークシェアしたり、熱気に包まれた館内をうちわを持って巡回し、暑そうな人を仰いであげるという社会的事業が生まれたりと、解決策のベクトルは実社会と変わらない。)

 最初に仕事に就く先は、まちの運営のために必要不可欠な公共事業である。『役場』では、前述の住民登録や帰る子のチェックといった出入国管理のほか、店舗ブースの管理や出店料の徴収などを行う。

 『銀行』では、じゃんの引き出し、預け入れ、両替の窓口業務が主となる。公共事業に従事した場合、30分働くと、業務内容に関わらず30じゃんが給料になるが、うち2割は税金として天引きされるため、銀行で引き出すときには24じゃんになる。紙幣がなくなってきたら造幣すること(紙幣を印刷し、ハンコを押し、カットする)も大事な業務の一つだ。

 『警察』は、横丁の規律を守り、困った人を助けるのが仕事だ。走る子を注意したり、落とし物を探したり、不法入国をした大人を逮捕したりと大忙し。警察官の帽子や手づくりの警棒といった小道具が、子どものやる気をかきたてるようで、人気の職業だ。ただし行き過ぎた正義感は警察権力の濫用につながり、しばしば逮捕、罰金、監禁をめぐって警察と丁民が口論する場面に出くわす。

 『情報局・放送局』は、横丁の情報を司っている。お店や丁民にインタビューをしたり横丁の様子を写真に収めて壁新聞を作ったり、1回2じゃんでお店のCMをアナウンスしたり、中継用のビデオカメラを回したり、業務の種類は多種多様だ。中でも女子アナは女子にとっての花形職業で、人気が集中する。最初は本番前に何度も練習して緊張した面持ちでマイクを握っていた子も、激しいマイク争奪戦を経て、いつの間にか余裕すら感じさせる一人前のアナウンサーに成長していく。ちなみに1年目から関わってくれている学生ボランティア杉本くん(当時岩津高生)が、情報局・放送局のあらゆる業務を陰ながらサポートしてくれている。

 『問屋』では、丁民が起業する際に商品を作成するための様々な材料を1じゃん均一(一部商品除く)で販売している。折り紙、紙皿、紙コップ、画用紙、ビニールテープ、模造紙、風船、ゴミ袋、ティッシュペーパー、ストロー、段ボールなど、多彩な品揃えを誇っている。

 『お茶屋』は、丁民が熱中症にならないよう水分を補給してもらうために、1じゃんで冷たいお茶を提供する公共事業だ。館内を隈なくまわる冷たいお茶の出張販売は、持ち場を離れられない子どもたち、裏方さんにとって救いとなっている。

 選挙は横丁の最重要イベントの一つだ(第3回目までは、5日間で2回、第4回以降は1回開催)。『選挙管理委員会』は、横丁初日に立候補者募集のポスターやチラシを作成し、丁長と議員(議席3)の候補者を募る。2日目に行われる選挙では、候補者が「どんな横丁にしたいか」「そのためにどんなことをするか」について演説の後、一斉に投票をする。即時集計を行い、即日当選者が発表される。

 当選した丁長、議員は、横丁にどんな課題やニーズがあるのかを、丁民に尋ねて回ったり、設置された目安箱への投書などから把握し、それに対して何をすべきかを『議会』で真剣に話し合う。また、役場と銀行で徴収された税金の使途についても考える。たとえば、お店の場所がアナウンス時にもわかるよう通りに名前をつけたり、公共事業としてちり紙の花づくりを発注し、それでまちの装飾をしたり、まちを綺麗にする清掃局を創設したり、政治家顔負けの政策を矢継早に打ち出し、丁民集会で民意を諮る。

 『観光局』では、大人が唯一横丁に入れる機会である「観光ツアー」を30分に一度のペースで催行する。一通り横丁の仕組みを説明するほか、支給される「じゃん」で買物をすることもできる。

 『お店』を出すには、大きい区画(一辺1.5mの正方形)で1日60じゃん、小さい区画(一辺1.5mの正三角形)で1日40じゃんの出店料が必要だ。傾向としては、女子は手づくり雑貨やアクセサリー類が多く、中にはネイルサロンを開業する子も。男子はもっぱら的当てや輪投げなどの遊戯系が多い。既製品の販売は警察によって取り締まられる。

 3年目には、身体測定、問診を無料で行い体調管理をサポートする『病院』が新設されたほか、横丁のテーマソングが生まれたり、なごみん周辺を探索し、まちの魅力を発見する「まち探検ツアー」が組まれたり。最終日には、丁長の寄付と税金を投じたお祭が催され、公共事業でつくられた段ボールの獅子舞と神輿が、太鼓のリズムに乗って会場を所狭しと練り歩く華々しいエンディングが行われた。

 4年目には、高校生、市民団体、地域の専門家が、商品開発や学びの機会を提供する『なごみんスクール』が開校し、子ども実行委員会が企画・運営を担った「ペットボトルキャップを集めよう!(家からペットボトルキャップを持ってきたり、館内に隠されたキャップを探し出して、くす玉に吊るされたカゴに入れていき、ある程度の重さになるとくす玉が割れるという参加型ミッション)」、「クイズ文武ショー(子どもたちが考案したオリジナルのクイズ大会)」など、子どもたちの役割とまちの機能が充実していった。

 そして5年目となる今回は、さらなる大幅な変更が加えられた。

5年目の変化

 なごみん横丁2011の実行委員会は、今年の1月から月1回のペースで、6月末からはほぼ毎週集まって企画内容を詰めていった。15人の小中学生からなる子ども実行委員会では、4つのグループに分かれ、事前の企画から、当日の運営をそれぞれ責任を持ってやることを前提に、大人や学生ボランティアと協力しながら準備を進めていった。

 新たに盛り込まれたのは、食事を子どもたち自らがつくって提供する『横丁食堂』や「流しそうめん」企画(これに伴い、これまで入場無料で行ってきたが、1日100円お支払いいただくことにした)、今年からなごみん全館を使えるようになったため、第2会議室を 真っ暗にしてつくり込んだお化け屋敷『暗夜回廊』、クーラーの効いた部屋でDVDを見ながら休憩できる『横丁オアシス』、愛産大建築学科の協力により、店舗の建物用にユニット化された段ボールパーツを販売する『建築屋』。大人が唯一くつろげる場所『大人村』では、円を「じゃん」に両替してお茶の出張販売やお茶菓子を購入したり、横丁の生中継を見ることができる。また、手づくりの横丁開催案内ポスターを事前に周辺の商店に持参し、横丁開催時の子ども記者による取材を申し込み、取材した店舗の宣伝ポスターをつくる「岩津の町を楽しく飾ろう」は、昔ながらの商店を知ってもらい、まちを活性化することを目的に企画された。

5人の“卒業”

 横丁創生期から関わってきた子ども実行委員のうち、中3の5名にとって、今年で丁民としての最後の年。大人実行委員会からは、この5名に対して、最終日の丁民集会で後輩たちへメッセージを残してほしいと伝え、議会にはそのお膳立てをしてほしいと投げかけたところ、我々大人たちが思いもかけないフィナーレが待っていた。  議会が税収総額と政策の実施にかかった費用と成果の発表をした後、オープニングセレモニーで用いた「なごみん」を「なごみん横丁」に変身させる扉の鍵を閉じると、議員さんの号令により、延べ約100人のボランティアの皆さんへの感謝の言葉が述べられた。続いて、横丁を“卒業”する中3の5名に、議員手づくりのお礼状が手渡され、その5人は残された丁民へ、横丁の未来を託すメッセージを告げた。すると、議員の一人が「今からみんなで花道をつくって5人を送り出したいと思います!」と宣言した。これは丁民はおろか、大人も議会関係者しか知らされていないサプライズ企画で、集会直前に配られたちり紙の花を手にした丁民を、議員らがその場で誘導して手際よく2列の花道をつくり、丁民の中でも一際背の高い卒業生たちより高く掲げた花と拍手で5名を送り出すという感動的な演出で、横丁5回目の熱い夏は幕を閉じた。


 なごみん横丁に協力してくださった皆さまに、この場をお借りして心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。