軒先1mのあたらしい日常

掲載号: りたらしい 97 号
発刊日 2019年3月

 岡崎市の中心市街地では、名鉄東岡崎駅から乙川、籠田公園、りぶら、岡崎城といったまちなか全体を楽しくぐるっと巡るルート「QURUWA」の実現に向けて、いよいよ籠田公園が改修工事に入り、人道橋も橋としての姿が明確に現れてきて、東岡崎駅前の道路も日々整備されていくなど、まちが動き出しています。こうした中、QURUWAの一部でもあり、旧東海道も通る歴史ある連尺通りでは、どのような通りのあり方を目指すべきかを問われていました。そこで、この通りならではの過ごし方、使いこなし方を、ここで暮らす人や商う人、訪れる人たちと一緒に探すために「通り」を生活の舞台とした実験 「連尺通り生活社会実験」を実施しました。
 実施にあたっては、歩道に貼ったテープの内側であれば自由に使えるような申請を行い、実際に通りでの過ごし方、使いこなし方を思いつく限り1つずつ試してみました。約1か月間の実験が終わる頃には、そこで生活する人にとっては通りが使えることは当たり前のようになり、未来の通りの風景を垣間見ることができました。(詳しくは次ページをご覧ください)

●生活社会実験の狙い

 QURUWA戦略(※)に基づいて「連尺通り生活社会実験」は企画されました。連尺通りには商店主を中心とした組合のような組織があり、この会合を中心に勉強会を行い、何度も繰り返し集まる中で、通りの現状や今後どうあるべきかについて考えを深めています。
 「無理をしないこと」という専門家のアドバイスもあり、まずは連尺通りの一部を対象に、歩道の軒先1m、植樹帯50cmにおいて実施。生活している人自身が歩道で「どのような過ごし方、使いこなし方ができるか?」ということを検証する実験をしました。自分たちが暮らしやすい未来の通りを生かした生活を試してみよう、という意味を込めて「生活社会実験」という名前にしています。

QURUWA戦略

乙川リバーフロント地区内の豊富な公共空間を活用した公民連携プロジェクトを実施することによりQURUWAの回遊を実現させ、その波及効果として、まちの活性化(暮らしの質の向上・エリアの価値向上)を図る戦略。同戦略の中で「二七市通り」「連尺通り」「康生通り」の3本の通りは、りぶらと籠田公園のつながりを強化し、歩いて楽しめる道路空間として利活用・再構築することになっている。

●具体的に行ったこと

 「無理をしないこと」を合言葉に、普段この通りにいない人を外から呼ぶことで賑わいを作るような、頑張って集客するイベントを企画するのではなく、既にあるいつもの生活を見直し、その生活の一部として通りをどのように使うことができるかを検討することにしました。
 “まずは実践してみねば“という思いで、りた のスタッフ(下里)自身が通りに延長コードを引っ張って、ノートパソコンを抱えてそこで働いてみることから始まりました。
 最初の週は怪訝そうな顔で通っていく人がほとんどで不安になりましたが、通りに出てそこで働くことによって今まで見えていなかった「通りにある生活」に気づくことができました(表1)。
 このような人たちの生活の1つ1つを発見し、それに合わせてベンチを動かしたり、人工芝を敷いてみたり、ご飯を売ってみたり、時には子供が遊ぶようにおもちゃを置いてみたり、ということを繰り返し、歩道の「使っていいエリア」を示したテープの内側に人がたたずみ、そこで時間を過ごすような仕掛けを試していきました。

●実施結果や考察

 今回の社会実験の特徴は、通常1日から1週間くらいといわれている実施期間を、申請できるおよそ最大の期間(約1か月)に設定し、徐々に作り上げていくという計画を立てたことにあります。そこにいる人を見ながら、配置や設置物自体も更新することを繰り返し、1つの型にはめない仕組みを作ることで、連尺通りで生活する人々が自分ごととして通りに関わることができました。自由に机や椅子を動かせて、その使い方のイメージがまちの人にも伝わったことで、ただ通り過ぎるだけだった場所で時間を過ごしてもらえるようになりました。住んでいる人たちが道路を活用する意義を体感して、今回の取り組みに共感する人が増えたことも大きな収穫でした。この実験をどのようにしたら「日常」にすることができるかを今後も検討していきます。