2015年に始まった乙川リバーフロント(RF)地区のまちづくり。2021年3月の中央緑道完成をもって、回遊動線QURUWA(*)がつながりました。今では、籠田公園、乙川河川緑地、桜城橋など、生まれ変わったQURUWAを舞台にして、「毎日どこかで何かがある」という状況が生まれています。
例えば乙川では第1・3土曜に新鮮野菜の朝市、第2土曜にリバークリーン、第3日曜にヨガ、夏から秋にかけては第4土曜日の乙川ナイトマーケットなどが行われています。籠田公園では、第2・4土曜に清掃活動があり、ラジオ体操は毎日開催されています。特筆すべきは、乙川、籠田公園、桜城橋で市民有志により定期清掃が行われており、公共空間を使うだけでなく手入れする活動が多いことです。りたは計画当初から市民参加の働きかけ、公共空間を使いこなす社会実験、各プロジェクトの情報発信・啓発など、多岐にわたり携わっていますが(**)、ここ1,2年の変化には目を見張るものがあります。
本号では、今年の2月20日に開催された「QURUWAシンポジウム」の一環で取材、紹介した内容を抜粋して、QURUWAの変化には、どのような人が関わっているのか、またまちに暮らす人はどう感じているのかという視点から、「QURUWAの新しい日常」を紹介します。
*QURUWA…乙川河川緑地、桜城橋、中央緑道、籠田公園、りぶら、岡崎公園と名鉄東岡崎駅をつなぐ約3㎞の主要回遊動線。
**本誌76,82,84,89,90,96,97,101,103,108号参照。
●もともとQURUWAに暮らす方に聞きました
籠田公園がリニューアルオープンしたのは、2019年7月26日。2015年度から再整備が進められるQURUWAの中で、最初に整備が完了した公共空間でした。これを機に「潮目」が変わります。7町・広域連合(本誌108号参照)の役員を務めているお二人、安藤さんと筒井さんは、籠田公園がリニューアルされてから、親子連れや若者など、まちに来る層が変わり、空き家や空き店舗を探す出店希望者からの相談も増えたとおっしゃいます。実際に、コロナ禍においても籠田公園周辺では新しいお店が続々と生まれています。毎月開催される7町・広域連合の定例会には、自治会役員、新旧商業者やイベント主催者、行政関係課など、様々な立場の方が集まり、連携調整のプラットフォームとして機能するようになっています。
籠田公園では、2021年11月から2つのグループにより毎週、岡崎オリジナルの健康体操「ごまんぞく体操」が行われています。ごまんぞく体操に参加されている千賀さんは、ここで毎週仲間に会えることを楽しみにしているそうです。こうした取り組みを支援している中央地域包括支援センターの柿本さんは「ごまんぞく体操は、たいてい公民館など屋内で行われていますが、季節を感じられたり、子どもたちの声が響く籠田公園でできることがすばらしい」と評価しています。
籠田公園向かいの「ベルン洋菓子店」の神谷さんは、籠田公園の再整備のプロセスに関わったことがきっかけとなり、公園に対する愛着が芽生え、周辺のお店や住民の方と、籠田公園の定期清掃をするようになったそうです。神谷さんが参加される「籠田地域みらい勉強会」は、利用者みんなで気持ちよく、大切に使ってもらえるよう公園の利用マナー向上の啓発や情報発信にも力を入れられています。
●新しくQURUWAで事業をはじめた方に聞きました
「みんなのおうち連尺」は、ビル2階のビニール加工スペースを改装して生まれた、親御さんが働けるワークスペースを兼ね備えた地域密着型託児所です。内装は市産材のヒノキがふんだんに使われ、すぐ近くにある籠田公園や甲山、乙川などの自然環境、そして地域とのつながりを大切にした保育が行われています。みんなのおうちを運営する「こどもと暮らすiiねっと」の小松さんは、「地域の人に見守られながら、子どもたちが地域と共に育っていく環境を大切にしたい」と話に力を込めます。現在、企業と提携して、新しい子育てと仕事の可能性を開く実証実験にも取り組まれています。
2015年度に開催されたリノベーションスクールから生まれたこだわりの地産食材を使ったお弁当屋「wagamama house」には、「何かやりたいけど、一歩が踏み出せない人」が良く相談に来られるそうです。店主の中根さんは、「そういう人の背中を押すのが私の役目」と目を輝かせて話してくれます。おいしいお惣菜だけでなく、行くだけで元気をもらえるwagamama houseは、子育てママをはじめ、女性が新しい一歩を踏み出すインキュベーション施設となっています。
同じくリノベーションスクールから生まれたMicro Hotel ANGLEのオーナーの飯田さんは、「このまちの魅力は、徒歩15分圏内に古き良きものと新しいものが共存していること」だと語ります。宿泊客に、昔からある名店や、迷路のような路地、市外からのお客さんも多いお店など、地元の人も見落としがちな魅力を紹介するととても喜ばれるそうです。最近は、何かやりたい若い人の相談などを受けることも多くなってきた、というのは、wagamama houseとも共通する現象と言えます。
籠田公園に行けば必ず会える、と言っても過言ではないのが、hiro.cafeの鈴木さんです。お隣の安城市で生まれ育った鈴木さんにとって、幼いころから岡崎と言えば康生、という印象が強く、この地に出店できて光栄だと話されます。鈴木さんの目からみると、(コロナ禍でどこのお店も経営が大変だとは思うが)このまちの方々は、近所に新しいお店ができると、仮に同じような業種のお店であってもお客さんを紹介してあげたり、買いに行ってあげたりして、お互いに支えあいながら、この難局を乗り越えようとする気概を感じるのだそうです。
2020年10月に籠田公園にデビューされた「岡田ライス」の岡田さん。実は渋谷パルコの跡地にできた「ホテルコエトーキョー」の総支配人という経歴を持つホテル業界のプロフェッショナルでもあります。そんな岡田さんの目には、新しくなった籠田公園と周辺の歴史あるお店一つ一つが醸し出す世界観とが引き立てあう空気感に「出店するならここしかない」と映ったそうです。ホスピタリティあふれる岡田さんの元には、いつも老若男女が集い、笑い声の絶えない場所になっています。
岡崎市に本社を構えるスノーピークビジネスソリューションズは、5年前からQURUWAの公共空間を使った社会実験などに積極的に関わられています。同社の社長室室長の坂田さんは、アウトドアギアとIT技術を活かして、QURUWAのいたるところに自然を感じながら働ける環境をつくったり、まちの過ごし方を変えていける可能性を感じられています。実際にスノーピークのテントが公園や河川敷に並ぶ壮観な景色は、QURUWAの新しい風景として定着してきています。
●QURUWAの新しい日常
ここまで紹介してきたQURUWAの変化について、3点にまとめます。
1.QURUWAの新たな動きが、もともとあったまちの底力を引き出し、相乗効果が生まれている。
新しい動きに目が行きがちですが、QURUWAでは、町内会や商店街、地元の企業など、元々このまちにいる人たちがより元気になって、自らあたらしいことに挑戦したり、外の人たちを温かく迎え入れて、協力しようという機運が高まっています。7町・広域連合のような、地域住民、事業者、行政の連携調整の場が生まれていることが大きな推進力を生み出していると感じます。
2.これまでの取組により、何かしたい人の相談窓口が増え、受け入れ態勢が整ってきた。
7町・広域連合やwagamama hosue、ANGLEなど、何かしたい人が相談する窓口は増えてきています。以前は、参加してくれる人を増やすために、りたや行政から積極的に働きかけて関わってもらっていましたが、今では知らないうちにどんどん関わる人が増えていっている、という状況になりました。2015年度当初より、直接声かけをして企画から試験的実施を共にした「第1世代」、2016年度以降、おとがワ!ンダーランドやリノベーションスクールなど担い手発掘のプラットフォームをきっかけにプロジェクトに参加してくれるようになった「第2世代」、そして今では、直接的な働きかけの外側から、第1世代や第2世代がハブになったり、まちの変化や評判から関心を寄せる「第3世代」が生まれてきていると言えます。
3.QURUWAがまちを好きになるきっかけになり、新しい過ごし方や新たな担い手の参画を誘発している。
このようなQURUWAの取組がきっかけになり、新しい過ごし方が生まれたり、まちへの愛着が持てる機会が増えてきています。こうして生まれた場所、風景、活動、人が、まちの魅力になっているのが「QURUWAの新しい日常」と言えます。
他にも紹介しきれないほど、たくさんの動きがあります。ぜひQURUWAを訪れて、ご自身の目で、足でお確かめください。
りたは、QURUWAエリアのまちづくりに関わる担い手を増やし、まちに変化を生み出すお手伝いをしてきました。今後、こうした繋がりや経験を、この地域の課題解決につなげ、さらにこの知見を他地域のまち育てにも活かしていきます。
QURUWAに関する情報はこちら ☞ quruwa.jp